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Friday, July 2, 2021

2024年度から住民税に1000円上乗せ徴収「森林環境税」の違和感 - ライブドアニュース - livedoor


2019年に創設された森林環境税を知っていますか?(写真:Yoshi/PIXTA)

新型コロナウイルスの影響もあり世界的に木材需要が高まった結果として、価格が高騰している――いわゆる「ウッドショック」が話題になる機会が増えた。国土の約7割が森林という日本にとってはビジネスチャンス、となってもおかしくないはずだが、そのような景気のいい話は聞こえてこない。なぜか。その背景には、林業や森林に関する政策の制度疲労が深くかかわっている、と指摘するのは長年、林業の現場で調査、研究を続けてきた白井裕子・慶應義塾大学准教授だ。

白井氏は新著『森林で日本は蘇る 林業の瓦解を食い止めよ』で、ほとんどの国民が知らない林業や森林が抱える問題点を伝えている。象徴的なのは、いつの間にか決まっていた「新税」の存在だろう。2024年度から、森林にまつわる新しい税金が徴収されることになったことを知る人は少ない。新税とはいったい何か、日本で何が起きているのか。同書より一部抜粋し再編集のうえお届けする。

森林環境税への違和感

2019年、ほとんどの国民が知らないうちに森林環境税なるものが創設された(同年3月に森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律が成立し、森林環境税と森林環境譲与税が作られた)。

この新しい国税は、使い方がハッキリしないまま、国民から徴収することだけが決まった。2024年度より、国民に対して住民税に1000円上乗せして徴収される。この税収は1年で620億円と言われる。そこから地方公共団体に「森林環境譲与税」が配分される。

「年間1000円の負担で、美しい森林が保てるのならば良いではないか」という物わかりの良い方もいるかもしれない。だが、以下の説明を読んでいただければ、そのようなことは期待できないことを理解していただけると思う。

そもそも以前から、同様の名目の地方税も存在しているのだ。新しい国税と同じ「森林環境税」や「水と緑の森づくり税」「森林(もり)づくり県民税」などの名称で徴収されている。これらは早い地域では2003年から徴収されており、2018年現在、37府県1市に広がっている。つまり、かなりの国民が、2024年以降は国と地域から、同じような税を2重に徴収されることになる。

内閣府の会合で、税金の設計を担当している省庁から説明を聞いた。その時、筆者は次のような質問をした。

「木材生産額2000億円に対し、林道、造林の行政投資だけで3000億円。木材生産額より補助金の方が大きい。林業には林道、造林以外にもまだ補助金がある。また、その会合時の最新公表値であった2014年度には治山2000億円、砂防3500億円、河川1兆5000億円という行政投資が行われている。この現状において新たな国税、森林環境税(620億円)は、どういう意味を持つのか」

別のワーキング・グループでは、その場に居合わせた委員も、林業を「成長産業化」すると言っているのに、国民から新たに税金を徴収するとは、いったい何事か、と大反対していた。他の委員も、ことあるごとに苦言を呈した。しかし、こうした声は無視される。ほぼ決まったことしか聞かされないのだ。言えば、ただうるさがられるだけのこと。

いったい何に使われるのか?

最近、林業技術の展示会へ行った時「森林環境譲与税活用事例」というパンフレットが目に止まった。機材やシステムの宣伝で、実態は「森林環境譲与税」をターゲットにしたセールスである。新しい予算で買ってもらうためのPRだ。

ある地方公共団体が、都市部の「森林環境譲与税」を目当てに、自分の村の木材を買ってもらおうと、宣伝に行った町では、「森林環境譲与税の使途は、外部のアドバイザーに外注しているから、セールスはそちらへ行って下さい」と言われたそうだ。

森林環境譲与税の目的の1つは「公的管理下」に置く森林を増やすことである。これまでにも、私有人工林670万haの3分の1にあたる210万haを針広混交林(針葉樹と広葉樹が混じり合った森林)に、つまり天然林化へ導き、「公的管理下」に置く方針で計画され始めた。いわば実質的に生産活動を期待しない山林に戻します、という「成長産業化」からの方向転換である。

新たに公的管理下に置く対象は、森林経営管理法(2019年4月1日施行)の中に、いつの間にか入っていた。この法律では、市町村の仲介で、森林の経営と管理を所有者から取り上げ、民間事業者に林業をさせることができることになっている。これは行政にしかできない仕事であり、この部分は評価できる。森林所有者の中には、自分の森林に関心もなく、どこにあるかも知らず、森林を所有する権利を持ちながら責任を果たさない人がいる。

疑問を感じるのは、その先である。民間で経営や管理ができない森林が210万haあるとして、さらにそれを市町村自らが経営、管理をすることにしたのだ。

しかしなぜ公的管理下に置く面積が210万haも増えるのだろうか。2017年の骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2017)には、「市町村が主体となって実施する森林整備等に必要な財源に充てるため、個人住民税均等割の枠組みの活用を含め都市・地方を通じて国民に等しく負担を求めることを基本とする森林環境税(仮称)の創設に向けて、地方公共団体の意見も踏まえながら……」とある。

要は公的管理に必要なコストは、国民に税金で負担してもらうと言っているのだ。一方で、林業の成長産業化を進めると大々的に宣言しているのに、言っている事と、やっている事が違わないだろうか。

政策で、林業を「成長産業化」させると謳いながら、その実態は、さらなる林業の国営(公営)化が進んでいるようにも見える。これまでの都道府県にさらに市町村も巻き込んで。内閣府の規制改革のワーキングではわれわれ委員も大反対した。しかし法律は施行された。

ドイツやオーストリアの例

あらたに公的管理下に置く森林の面積210万haは、愛知県4つ分の広さ以上である。日本の山林は急峻で、局所的には公で守らねばならないエリアは存在している。しかしすでに国有林は770万haある。


さらに「民有林」と区分される中にも、都道府県や市町村が所有する「公有林」が300万ha含まれている。国有林と公有林、そこに210万haをプラスすると、1280万ha。一方で私有林は1430万haから210万ha減るので、1220万haになる。公がテリトリーにする山林の面積が、私有林を上回ることになる。

例えば、ドイツ、オーストリアでも国家レベルは枠組みを提示しているだけで、具体的に林業をどうするかに関わっているのは州(日本の都道府県にあたる)である。そして州有林でさえも、林業自体は民間企業に任せている地域もある。

現在の日本は海外の林業先進国とも逆行する。そもそもドイツでは面積比で国有林(連邦有林)4%、州有林29%に過ぎない。

また森林所有とその公益性の制度について言えば、外国籍の人や組織による林地の取得が広がっている問題がある。言うことを聞かせやすい所からではなく、行政にしかできないことから、それも緊急を要する問題の解決を、前面に出してもらった方が、国民は安心し、信頼するのではなかろうか。

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