国内の感染者数減少により、新型コロナウイルスの対策の切り札として注目される飲み薬の安全性や有効性をヒトの体で確かめる臨床試験(治験)の進捗(しんちょく)が見通しにくくなっている。国産の飲み薬を開発中の塩野義製薬も治験参加者の確保に苦戦。国は新型コロナの軽症患者を対象に、実施している治験を紹介するコールセンターを設置する異例の対応をとっている。
「予定より遅れているが、何とか年内承認申請を進めたい」。塩野義の手代木功社長は1日の記者会見で、10月中には70人規模で集める予定だった治験参加者の確保ができていないことを明らかにした。急遽(きゅうきょ)、韓国やベトナム、英国などで治験参加者を募ることを決め、何とか予定通りに年内2千例規模の治験を進めたい考えだ。
「新型コロナの患者は保健所で療養先が振り分けられるので、参加者を探そうとすると、病院だけではなく、行政の協力が必要なのが、通常の治験とは異なる」と同社臨床開発部の福原章浩さんは明かす。新たに神奈川県や大阪府などの自治体の協力を得て、宿泊療養施設での治験を実施する仕組みを作った。厚生労働省も9月、軽症者を対象とした治療薬の企業治験について紹介するコールセンターを設置。製薬関係者は「国が企業の治験を紹介するのは異例のこと」と驚く。
大阪労災病院の感染制御チームリーダー、川村尚久・小児科部長は「飲み薬は感染症との戦いには不可欠」と塩野義の治験に協力する。これまでも、急性の胃腸炎、ロタウイルス感染症のワクチンの治験に参加した経験があり、「有効性はまだ分からないが、治験は、必要とされる薬を公平な判断で世に出していくためにも大事なプロセス。患者さんもそういった思いで治験に参加してくれています」と話している。
■ワクチンと飲み薬で5類引き下げ議論のきっかけになるか
一方、全国の感染者数の急速な減少の理由に、専門家はワクチン接種の広まりなどを挙げる。飲み薬が実用化すれば、さらに重症化を防ぐ手段が増えることになり、新型コロナについて、厳格な措置をとる感染症法上の扱いを引き下げる議論も進みそうだ。
大阪大学医学部感染制御学の忽那(くつな)賢志(さとし)教授は急速な感染者数減少について「理由のひとつに、国内で短期間にワクチン接種が広まり、今は集団として感染リスクの低い人が多くを占めるようになっていることが考えられる」と話す。その上で、若い世代のワクチン接種が十分に行われていないこと、やがて早期に接種した人たちの感染予防効果が低下することを考慮すると「再び感染拡大する可能性はある」と指摘する。そこで備えとして経口薬の実用化にも期待。抗ウイルス薬はそもそも、ウイルスが増殖する前にできるだけ早く投与する必要があるため「経口薬は点滴薬よりもアクセスしやすい。より適切なタイミングで投与できる」と説明する。
「飲み薬が安定供給できるようになればインパクト大」と語るのは政府分科会の舘田(たてだ)一博・東邦大教授。感染症法上、一部では、エボラ出血熱などが属する1類以上の厳格な対応が求められる新型コロナを、毎年流行する季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げる「一つのきっかけになる」とする。
忽那教授も「ワクチンが広まり、抗体カクテル療法やレムデシビルなど治療薬の選択肢も増え、致死率も下がってきたのは確か。5類相当に引き下げとなると、保健所の業務負担がかなり軽減される。議論のタイミングになっているのでは」と話している。
国産飲み薬、治験参加者の確保困難に 国も支援強化 - 産経ニュース
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